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SPECIAL ARTICLE

特集❶ 温故知新

2021/8/19

330年の時を経て「松濱軒」から学ぶ日本の建築【3/3】

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庭の景色を楽しむために、母屋は全てガラス戸で囲んでいる。色紙割のガラス戸と呼ばれ、とても希少なガラス。表面がゆらゆらと波打っていてこの微妙なゆがみも古ガラスならでは。今では手に入れることができない貴重なガラスなので割れないことを祈るばかり

夏は日差しを遮り涼しく、冬は輻射熱を取り込んで部屋を暖かくする深い庇

通風を考慮した高床式で湿気を防ぐ。深い庇と縁側は、今に残る日本の家

「見ても分かるように、母屋はずいぶんと高床になっています。通気を良くして、湿気による腐敗やシロアリの被害を防いでいます。深い庇がぐるりと屋敷を囲み夏は日差しを遮り、冬は温かな陽だまりを呼び込むよう工夫されています。そして何よりすごいと思うのは、庭と屋敷の一体型のデザインですね。どこからも庭が見れるようにデザインされ、それでいてそれぞれの部屋が独立している。日本人ならではの季節を愛で、豊かに暮らすすばらしいセンスだと思います」

 

一番眺めがいいという書院で正座をして庭に目をやると、ちょうど池の水面が目の高さと重なり、まるで水面に浮かんでいるような錯覚を起こします。築山は海に浮かぶ小島のようです。

 

「私が父から託されたのはこの母屋を可能な限り往時のまま維持し、次の世代につなぐことです。それを使命として何とか頑張って行きたいですね」

 

これだけの規模で歴史的価値のある建物を維持するのは並大抵のことではありません。多分松井さんのおとう様もおじい様もきっと大変な苦労をされてきたのでしょう。

 

歴史を積み重ねて築かれた日本の文化は、建築様式を見てもその時代のさまざまな政治や暮らし、文化的背景が見て取れます。日本の美しい自然を凝縮したような回遊式庭園、工夫を重ね四季を暮らしに取り込む伝統の技、そして古式文化を大切にする人の心…。

 

「温故知新」。松濱軒を訪ねれば、これからの暮らしのヒントがあるような気がします。

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玄関からは母屋の全体像は見ることはできないがその奥行きの深さの迫力が感じられる

松井家は代々能楽を愛好した家として有名。14代当主の松井葵之さんも幼い頃はこの大広間で能を舞っていた。今も能楽の練習場として仕様。畳は日本一の生産量を誇る八代産い草を使用。

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茶室の水屋。茶の湯のための茶道具を整える場所

玄関奥の正面の杉戸には鶴の絵が描かれ、引き戸を開ければ親鳥だけになり、閉めればひな鳥が2羽現れる。だまし絵のような演出で楽しんでいた

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上部が尖塔アーチ状の「花頭窓」。茶席では広間の床脇書院の窓に多く用いられ、窓枠は黒漆塗で建具は柳障子で作られている。江戸時代は透かし障子で明かりを取り陰影を楽しんでいた

重厚な門構えの冠木門

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全国でも希少となったなまこ壁。外壁に瓦を水平に並べ、漆喰で八角形に縁取りしているのが特徴、熊本県に多い意匠

玄関から入ると中廊下が真っすぐに伸び、正面奥に配されたガラス戸の光が導くように差し込み庭の景色を切り取る。客人をもてなす・粋な演出

■取材協力

国指定 名勝「松濱軒」

所/八代市北の丸町3-15

0965-33-0171

開園時間/9:00~17:00(入園は16:30まで)

休/月曜(祝日の場合は翌日)

P/八代市立図書館横(無料)

観覧料/一般500円、小中学生250円

※観覧は庭と資料館になります

今こそ学びたい、日本の気候風土を活かす伝統の技法

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